ほら》の口に立っていたが、たちまち慌《あわただ》しく呼んだ。
「ちょいと……ちょいと、ちょいと。」
音も聞えず。お兼は尋常《ただ》ならず声を揚げて、
「滝さん、おい、ちょいと、滝さん。」
「おう、」と応《こた》えて、洞穴の隅の一方に少年の顔は顕れた。早く既に一個角燈に類した、あらかじめそこに用意をしてあるらしい灯《ともし》を手にしている。
お兼は走り寄って、附着《くッつ》いて、
「恐しい音がする、何だい、大変な響だね。地面を抉《えぐ》り取るような音が聞えるじゃあないか。」
いかにも洞の中は、ただこれ一条の大|瀑布《ばくふ》あって地の下に漲《みなぎ》るがごとき、凄《すさま》じい音が聞えるのである。
滝太郎は事もなげに、
「ああ、こりゃね、神通川の音と、立山の地獄谷の音が一所になって聞えるんだって言うんだ。地底《じぞこ》がそこらまで続いているんだって、何でもないよ。」
神通は富山市の北端を流るる北陸《ほくろく》七大川の随一なるものである。立山の地獄谷はまた世に響いたもので、ここにその恐るべき山川《さんせん》大叫喚の声を聞くのは、さすがに一個婦人の身に何でもない事ではない。
お兼
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