は顔の色も沈んで、滝太郎にひしと摺寄《すりよ》りながら、
「そうかい、川の音は可《い》いけれど地獄が聞えるなんざ気障《きざ》だねえ。ちょいと、これから奥へ入ってどうするのさ、お前さんやりやしないか。私ゃ殺されそうな気がするよ、不気味だねえ。」
「馬鹿なことを!」
三十六
「いいえ、お前さん、何だか一通《ひととおり》じゃあないようだ、人殺《ひとごろし》もしかねない様子じゃあないか。」さすがの姉御《あねご》も洞中《ほらなか》の闇《やみ》に処して轟々《ごうごう》たる音の凄《すさま》じさに、奥へ導かれるのを逡巡《しりごみ》して言ったが、尋常《ただ》ならぬ光景に感ずる余り、半ばは滝太郎に戯れたので。
「おいで、さあ、夜が明けると人が見るぜ。出後《でおく》れた日にゃあ一日|逗留《とうりゅう》だ、」と言いながら、片手に燈《ともし》を釣って片手で袖を引くようにして連込んだ。お兼は身を任せて引かれ進むと、言うがごとく洞穴の突当りから左へ曲る真暗《まっくら》な処を通って、身を細うして行くとたちまち広し。
「まだまだ深いのかい。」
「もう可《い》い、ここはね、おい、誰も来る処じゃあねえよ。
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