ばかり経《た》つと、その言違《ことたが》わず果して富山からだといって尋ねて来たのが、すなわち当時の家令で、先代に託されて、その卒去の後《のち》、血統というものが絶えて無いので、三年間千破矢家を預《あずか》っていて今も滝太郎を守立ててる竜川守膳《たつかわしゅぜん》という漢学者。
 守膳は学校の先生から滝太郎の母親の遺書を受取ったが、その時は早や滝太郎が俵町を去って二月ばかり過ぎた後であったので、泰山のごとく動かず、風采《ふうさい》、千破矢家の傳《ふ》たるに足る竜川守膳が、顔の色を変えて血眼になって、その捜索を、府下における区々の警察に頼み聞えると、両国|回向院《えこういん》のかの鼠小憎の墓前《はかのまえ》に、居眠《いねむり》をしていた小憎があった。巡行の巡査が怪《あやし》んで引立《ひった》て、最寄の警察で取調べたのが、俵町の裏長屋に居たそれだと謂って引渡された。
 田舎は厭《いや》だと駄々を捏《こ》ねるのを、守膳が老功で宥《なだ》め賺《すか》し、道中土を蹈《ふ》まさず、動《ゆるぎ》殿のお湯殿子《ゆどのこ》調姫《しらべひめ》という扱いで、中仙道は近道だが、船でも陸《おか》でも親不知《おやし
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