ともなく常にじとじと、濡れた草が所々にある中においてした。しかもお雪が宿の庭|続《つづき》、竹藪《たけやぶ》で住居《すまい》を隔てた空地、直ちに山の裾が迫る処、その昔は温泉《ゆ》が湧出《わきで》たという、洞穴《ほらあな》のあたりであった。人は知らず、この温泉《ゆ》の口の奥は驚くべき秘密を有して、滝太郎が富山において、随処その病的の賊心を恣《ほしいまま》にした盗品を順序よく並べてある。されば、お雪が情人に貢ぐために行商する四季折々の花、美しく薫《かおり》のあるのを、露も溢《こぼ》さず、日ごとにこの洞穴の口浅く貯えておくのは、かえって、滝太郎が盗利品に向って投げた、花束であることを、あらかじめここに断っておかねばならぬ。
さて、滝太郎がその可恐《おそろ》しい罪を隠蔽《いんぺい》しておく、温泉《ゆ》の口の辺《あたり》で、精細|式《かた》のごときモウセンゴケを見着けた目は、やがてまた自分がそこに出没する時、人目のありやなしやを熟《じっ》と見定める眼《まなこ》であるから、己《おのれ》の視線の及ぶ限《かぎり》は、樹も草も、雲の形も、日の色も、従うて蟻の動くのも、露のこぼるるのも知らねばならないの
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