うっかりしちゃあ危険《けんのん》だよ。」
「あい、いいえ、それが何だ、知事のお嬢さんがね、いやに目をつけて指環を取換《とッか》えようなんて言うんだ。何だか機関《からくり》を見られるようで、気がさすから、目立たないのが可かろう、銀流でもかけておけと、訳はありゃしねえ、出来心で遣ったんだ、相済みません。」といって、莞爾《かんじ》として戯《たわむれ》にその頭《つむり》を下げた。
「沢山《たんと》お辞儀をなさい、お前さん怪《け》しからないねえ。そりゃ惚《ほ》れてるんだろう、恐入った?」
「おお、惚れたんだか何だか知らねえが、姫様《ひいさま》の野郎が血道を上げて騒いでるなあ、黒百合というもんです。」
「何だとえ。」
「百合の花の黒いんだッさ、そいつを欲しいって騒ぐんだな。」
「へい、欲しければ買ったら可さそうなもんじゃあないか。」
「それがね、不可《いけ》ねえんだ、銭金《ぜにかね》ずくじゃないんだってよ。何でも石滝って処を奥へ蹈込《ふみこ》むと、ちょうど今時分咲いてる花で、きっとあるんだそうだけれど、そこがまた大変な処でね、天窓《あたま》が石のような猿の神様が住んでるの、恐《おそろし》い大《おお
前へ 次へ
全199ページ中105ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング