のであった。
まだ、その蜘蛛大名の一座に、胴の太い、脚の短い、芋虫《いもむし》が髪を結《ゆ》って、緋《ひ》の腰布《こしぬの》を捲《ま》いたような侏儒《いっすんぼし》の婦《おんな》が、三人ばかりいた。それが、見世ものの踊《おどり》を済まして、寝しなに町の湯へ入る時は、風呂の縁《ふち》へ両手を掛けて、横に両脚《りょうあし》でドブンと浸《つか》る。そして湯の中でぶくぶくと泳ぐと聞いた。
そう言えば湯屋《ゆや》はまだある。けれども、以前見覚えた、両眼《りょうがん》真黄色《まっきいろ》な絵具の光る、巨大な蜈※[#「虫+松」、第4水準2−87−53]《むかで》が、赤黒い雲の如く渦《うず》を巻いた真中に、俵藤太《たわらとうだ》が、弓矢を挟《はさ》んで身構えた暖簾《のれん》が、ただ、男、女と上へ割って、柳湯《やなぎゆ》、と白抜きのに懸替《かけかわ》って、門《かど》の目印の柳と共に、枝垂《しだ》れたようになって、折から森閑《しんかん》と風もない。
人通りも殆ど途絶えた。
が、何処《どこ》ともなく、柳に暗い、湯屋の硝子戸《がらすど》の奥深く、ドブンドブンと、ふと湯の煽《あお》ったような響《ひびき》
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