が聞える。……
立淀《たちよど》んだ織次の耳には、それが二股から遠く伝わる、ものの谺《こだま》のように聞えた。織次の祖母《おおば》は、見世物のその侏儒《いっすんぼし》の婦《おんな》を教えて、
「あの娘《こ》たちはの、蜘蛛庄屋《くもしょうや》にかどわかされて、その※[#「女+必」、第4水準2−5−45]《こしもと》になったいの。」
と昔語りに話して聞かせた所為《せい》であろう。ああ、薄曇りの空低く、見通しの町は浮上《うきあが》ったように見る目に浅いが、故郷《ふるさと》の山は深い。
また山と言えば思出す、この町の賑《にぎや》かな店々の赫《かっ》と明るい果《はて》を、縦筋《たてすじ》に暗く劃《くぎ》った一条《ひとすじ》の路《みち》を隔てて、数百《すひゃく》の燈火《ともしび》の織目《おりめ》から抜出《ぬけだ》したような薄茫乎《うすぼんやり》として灰色の隈《くま》が暗夜《やみ》に漾《ただよ》う、まばらな人立《ひとだち》を前に控えて、大手前《おおてまえ》の土塀《どべい》の隅《すみ》に、足代板《あじろいた》の高座に乗った、さいもん語りのデロレン坊主、但し長い頭髪《かみのけ》を額《ひたい》に振分
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