通りへ目に立って、蜘蛛男《くもおとこ》の見世物があった事を思出す。
額《ひたい》の出た、頭の大きい、鼻のしゃくんだ、黄色い顔が、その長さ、大人《おとな》の二倍、やがて一尺、飯櫃形《いびつなり》の天窓《あたま》にチョン髷《まげ》を載せた、身の丈《たけ》というほどのものはない。頤《あご》から爪先の生えたのが、金ぴかの上下《かみしも》を着た処《ところ》は、アイ来た、と手品師が箱の中から拇指《おやゆび》で摘《つま》み出しそうな中親仁《ちゅうおやじ》。これが看板で、小屋の正面に、鼠《ねずみ》の嫁入《よめいり》に担《かつ》ぎそうな小さな駕籠《かご》の中に、くたりとなって、ふんふんと鼻息を荒くするごとに、その出額《おでこ》に蚯蚓《みみず》のような横筋を畝《うね》らせながら、きょろきょろと、込合《こみあ》う群集《ぐんじゅ》を視《なが》めて控える……口上言《こうじょういい》がその出番に、
「太夫《たゆう》いの、太夫いの。」と呼ぶと、駕籠の中で、しゃっきりと天窓《あたま》を掉立《ふりた》て、
「唯今《ただいま》、それへ。」
とひねこびれた声を出し、頤《あご》をしゃくって衣紋《えもん》を造る。その身動き
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