という騒ぎで、来るほどに、集《たか》るほどに、丁《とん》と片時《かたとき》も落着いていた験《ためし》はがあせん。」
と蔵の中に、何とやらと言った、その口の下……
「手前《てまえ》じゃ、まあ、持物《もちもの》と言ったようなものの、言わばね、織さん、何んですわえ。それ、貴下《あなた》から預かっているも同然な品なんだから、出入れには、自然、指垢《ゆびあか》、手擦《てずれ》、つい汚れがちにもなりやしょうで、見せぬと言えば喧嘩《けんか》になる……弱るの何んの。そこで先ず、貸したように、預けたように、余所《よそ》の蔵に秘《しま》ってありますわ。ところが、それ。」
と、これも気色《けしき》ばんだ女房の顔を、兀上《はげあが》った額越《ひたいごし》に、ト睨《や》って、
「その蔵持《くらもち》の家《うち》には、手前が何でさ、……些《ち》とその銭式《レコしき》の不義理があって、当分顔の出せない、といったような訳《わけ》で、いずれ、取って来ます。取って来るには取って来ますが、ついちょっと、ソレ銭式《レコしき》の事ですからな。
それに、織さん、近頃じゃ価《ね》が出ましたっさ。錦絵《にしきえ》は……唯《たっ
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