、その時分から円《まる》い背を、些《ち》と背屈《せこご》みに座る癖《くせ》で、今もその通りなのが、こうまで変った。
 平吉は既《も》う五十の上、女房はまだ二十《はたち》の上を、二ツか、多くて三ツであろう。この姉だった平吉の前《ぜん》の家内が死んだあとを、十四、五の、まだ鳥も宿らぬ花が、夜半《よわ》の嵐に散らされた。はじめ孫とも見えたのが、やがて娘らしく、妹らしく、こうした処《ところ》では肖《ふさわ》しくなって、女房ぶりも哀《あわれ》に見える。
 これも飛脚に攫《さら》われて、平吉の手に捕われた、一枚の絵であろう。
 いや、何んにつけても、早く、とまた屹《きっ》と居直ると、女房の返事に、苦い顔して、横睨《よこにら》みをした平吉が、
「だが、何だぜ、これえ、何それ、何、あの貸したきりになってるはずだぜ。催促はするがね……それ、な、これえ。まだ、あのまま返って来ないよ、そうだよ。ああ、そうだよ。」
 と幾度《いくだび》も一人で合点《のみこ》み、
「ええ、織さん、いや、どうも、あの江戸絵ですがな、近所合壁《きんじょがっぺき》、親類中の評判で、平吉が許《とこ》へ行ったら、大黒柱より江戸絵を見い、
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