《のち》、折を見て、父が在世《ざいせ》の頃も、その話が出たし、織次も後《のち》に東京から音信《たより》をして、引取《ひきと》ろう、引取ろうと懸合《かけあ》うけれども、ちるの、びるので纏《まと》まらず、追っかけて追詰《せりつ》めれば、片音信《かただより》になって埒《らち》が明かぬ。
 今日こそ何んでも、という意気込《いきご》みであった。
 さて、その事を話し出すと、それ、案の定、天井睨《てんじょうにら》みの上睡《うわねむ》りで、ト先ず空惚《そらとぼ》けて、漸《やっ》と気が付いた顔色《がんしょく》で、
「はあ、あの江戸絵《えどえ》かね、十六、七年、やがて二昔《ふたむかし》、久しいもんでさ、あったっけかな。」
 と聞きも敢《あ》えず……
「ないはずはないじゃないか、あんなに頼んで置いたんだから。……」と何故《なぜ》かこの絵が、いわれある、活ける恋人の如く、容易《たやす》くは我が手に入《い》らない因縁《いんねん》のように、寝覚めにも懸念して、此家《ここ》へ入るのに肩を聳《そび》やかしたほど、平吉がかかる態度に、織次は早や躁立《いらだ》ち焦《あせ》る。
 平吉は他処事《よそごと》のように仰向《あ
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