末《すえ》を見込んで嫁入《きて》がないッさ。ね、祖母《としより》が、孫と君の世話をして、この寒空《さむぞら》に水仕事だ。
 因果な婆さんやないかい、と姉がいつでも言ってます。」……とその時言った。
 ――その姉と言うのが、次室《つぎのま》の長火鉢の処《ところ》に来ている。――

       九

 そこへ、祖母《としより》が帰って来たが、何んにも言わず、平吉に挨拶《あいさつ》もせぬ先に、
「さあ」と言って、本を出す。
 織次は飛んで獅子の座へ直《なお》った勢《いきおい》。上から新撰に飛付《とびつ》く、と突《つん》のめったようになって見た。黒表紙には綾《あや》があって、艶《つや》があって、真黒な胡蝶《ちょうちょう》の天鵝絨《びろうど》の羽のように美しく……一枚開くと、きらきらと字が光って、細流《せせらぎ》のように動いて、何がなしに、言いようのない強い薫《かおり》が芬《ぷん》として、目と口に浸込《しみこ》んで、中に描《か》いた器械の図などは、ずッしり鉄《くろがね》の楯《たて》のように洋燈《ランプ》の前に顕《あらわ》れ出《い》でて、絵の硝子《がらす》が燐《ばっ》と光った。
 さて、祖母《と
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