してねえ。ええ、織さん、この二、三日は浜で鰯《いわし》がとれますよ。」と縁《えん》へはみ出るくらい端近《はしぢか》に坐ると一緒に、其処《そこ》にあった塵《ちり》を拾って、ト首を捻《ひね》って、土間に棄てた、その手をぐいと掴《つか》んで、指を揉《も》み、
「何時《いつ》、当地《こっち》へ。」
「二、三日前さ。」
「雑《ざっ》と十四、五年になりますな。」
「早いものだね。」
「早いにも、織さん、私《わっし》なんざもう御覧の通り爺《じじい》になりましたよ。これじゃ途中で擦違《すれちが》ったぐらいでは、ちょっとお分りになりますまい。」
「否《いや》、些《ちっ》とも変らないね、相《あい》かわらず意気《いき》な人さ。」
「これはしたり!」
と天井抜けに、突出《つきだ》す腕《かいな》で額《ひたい》を叩《たた》いて、
「はっ、恐入《おそれい》ったね。東京|仕込《じこみ》のお世辞は強《きつ》い。人《ひと》、可加減《いいかげん》に願いますぜ。」
と前垂《まえだれ》を横に刎《は》ねて、肱《ひじ》を突張《つッぱ》り、ぴたりと膝に手を支《つ》いて向直《むきなお》る。
「何、串戯《じょうだん》なものか。」と言
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