み》、些《ち》と煤《すす》びたが、人形だちの古風な顔。満更《まんざら》の容色《きりょう》ではないが、紺の筒袖《つつそで》の上被衣《うわっぱり》を、浅葱《あさぎ》の紐で胸高《むなだか》にちょっと留《と》めた甲斐甲斐《かいがい》しい女房ぶり。些《ち》と気になるのは、この家《うち》あたりの暮向《くらしむ》きでは、これがつい通りの風俗で、誰《たれ》も怪《あや》しみはしないけれども、畳の上を尻端折《しりばしょり》、前垂《まえだれ》で膝を隠したばかりで、湯具《ゆのぐ》をそのままの足を、茶の間と店の敷居で留《と》めて、立ち身のなりで口早《くちばや》なものの言いよう。
「何処《どこ》からおいで遊ばしたえ、何んの御用で。」
と一向《いっこう》気のない、空《くう》で覚えたような口上《こうじょう》。言《ことば》つきは慇懃《いんぎん》ながら、取附《とりつ》き端《は》のない会釈をする。
「私だ、立田《たつた》だよ、しばらく。」
もう忘れたか、覚えがあろう、と顔を向ける、と黒目がちでも勢《せい》のない、塗ったような瞳を流して、凝《じっ》と見たが、
「あれ。」と言いさま、ぐったりと膝を支《つ》いた。胸を衝《つ》
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