《すみわた》って、銀河一帯、近い山の端《は》から玉《たま》の橋を町家《まちや》の屋根へ投げ懸ける。その上へ、真白《まっしろ》な形で、瑠璃《るり》色の透《す》くのに薄い黄金《きん》の輪郭した、さげ結びの帯の見える、うしろ向きで、雲のような女の姿が、すっと立って、するすると月の前を歩行《ある》いて消えた。……織次は、かつ思いかつ歩行《ある》いて、丁《ちょう》どその辻へ来た。

       四

 湯屋《ゆや》は郵便局の方へ背後《うしろ》になった。
 辻の、この辺《あたり》で、月の中空《なかぞら》に雲を渡る婦《おんな》の幻《まぼろし》を見たと思う、屋根の上から、城の大手《おおて》の森をかけて、一面にどんよりと曇った中に、一筋《ひとすじ》真白《まっしろ》な雲の靡《なび》くのは、やがて銀河になる時節も近い。……視《なが》むれば、幼い時のその光景《ありさま》を目前《まのあたり》に見るようでもあるし、また夢らしくもあれば、前世が兎《うさぎ》であった時、木賊《とくさ》の中から、ひょいと覗《のぞ》いた景色かも分らぬ。待て、希《こいねがわ》くは兎でありたい。二股坂《ふたまたざか》の狸《たぬき》は恐れる。
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