《やぞう》、片手をぬい、と出し、人の顋《あご》をしゃくうような手つきで、銭を強請《ねだ》る、爪の黒い掌《てのひら》へ持っていただけの小遣《こづかい》を載せると、目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》ったが、黄色い歯でニヤリとして、身体《からだ》を撫《な》でようとしたので、衝《つ》と極《きまり》が悪く退《すさ》った頸《うなじ》へ、大粒な雨がポツリと来た。
忽《たちま》ち大驟雨《おおゆうだち》となったので、蒼くなって駈出《かけだ》して帰ったが、家《うち》までは七、八町、その、びしょ濡れさ加減《かげん》思うべしで。
あと二夜《ふたよ》ばかりは、空模様を見て親たちが出さなかった。
さて晴れれば晴れるものかな。磨出《みがきだ》した良《い》い月夜に、駒《こま》の手綱を切放《きりはな》されたように飛出《とびだ》して行った時は、もうデロレンの高座は、消えたか、と跡もなく、後幕《うしろまく》一重《ひとえ》引いた、あたりの土塀の破目《われめ》へ、白々《しろじろ》と月が射した。
茫《ぼっ》となって、辻に立って、前夜の雨を怨《うら》めしく、空を仰《あお》ぐ、と皎々《こうこう》として澄渡
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