息を凝《こら》すと、納戸で、
(うむ、)といって長く呼吸《いき》を引いて一声《ひとこえ》、魘《うなさ》れたのは婦人《おんな》じゃ。
(今夜はお客様があるよ。)と叫んだ。
(お客様があるじゃないか。)
としばらく経って二度目のははっきりと清《すず》しい声。
極めて低声《こごえ》で、
(お客様があるよ。)といって寝返る音がした、更《さら》に寝返る音がした。
戸の外のものの気勢《けはい》は動揺《どよめき》を造るがごとく、ぐらぐらと家が揺《ゆらめ》いた。
私《わし》は陀羅尼《だらに》を呪《じゅ》した。
若不順我呪《にゃくふじゅんがしゅ》 悩乱説法者《のうらんせっぽうじゃ》
頭破作七分《ずはさしちぶん》 如阿梨樹枝《にょありじゅし》
如殺父母罪《にょしぶもざい》 亦如厭油殃《やくにょおうゆおう》
斗秤欺誑人《としょうごおうにん》 調達破僧罪《じょうだつはそうざい》
犯此法師者《ほんしほっししゃ》 当獲如是殃《とうぎゃくにょぜおう》
と一心不乱、さっと木の葉を捲《ま》いて風が南《みんなみ》へ吹いたが、たちまち静《しずま》り返った、夫婦が閨《ねや》もひッそりした。」
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