高野聖《こうやひじり》
泉鏡花

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)高野聖《こうやひじり》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)参謀《さんぼう》本部|編纂《へんさん》の地図を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)※[#「目」+「句」 101−3]《みまわ》している様子
−−

     一   

「参謀《さんぼう》本部|編纂《へんさん》の地図をまた繰開《くりひら》いて見るでもなかろう、と思ったけれども、余りの道じゃから、手を触《さわ》るさえ暑くるしい、旅の法衣《ころも》の袖《そで》をかかげて、表紙を附《つ》けた折本になってるのを引張《ひっぱ》り出した。
 飛騨《ひだ》から信州へ越《こ》える深山《みやま》の間道で、ちょうど立休らおうという一本の樹立《こだち》も無い、右も左も山ばかりじゃ、手を伸《の》ばすと達《とど》きそうな峰《みね》があると、その峰へ峰が乗り、巓《いただき》が被《かぶ》さって、飛ぶ鳥も見えず、雲の形も見えぬ。
 道と空との間にただ一人我ばかり、およそ正午《しょうご》と覚しい極熱《ごくねつ》の
次へ
全102ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング