太陽の色も白いほどに冴《さ》え返った光線を、深々と戴《いただ》いた一重《ひとえ》の檜笠《ひのきがさ》に凌《しの》いで、こう図面を見た。」
旅僧《たびそう》はそういって、握拳《にぎりこぶし》を両方|枕《まくら》に乗せ、それで額を支えながら俯向《うつむ》いた。
道連《みちづれ》になった上人《しょうにん》は、名古屋からこの越前敦賀《えちぜんつるが》の旅籠屋《はたごや》に来て、今しがた枕に就いた時まで、私《わたし》が知ってる限り余り仰向《あおむ》けになったことのない、つまり傲然《ごうぜん》として物を見ない質《たち》の人物である。
一体東海道|掛川《かけがわ》の宿《しゅく》から同じ汽車に乗り組んだと覚えている、腰掛《こしかけ》の隅《すみ》に頭《こうべ》を垂れて、死灰《しかい》のごとく控《ひか》えたから別段目にも留まらなかった。
尾張《おわり》の停車場《ステイション》で他《ほか》の乗組員は言合《いいあわ》せたように、残らず下りたので、函《はこ》の中にはただ上人と私と二人になった。
この汽車は新橋を昨夜九時半に発《た》って、今夕《こんせき》敦賀に入ろうという、名古屋では正午《ひる》だったか
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