まで遠くの方から歩行《ある》いて来たのではないよう、猿も、蟇《ひき》も、居る処と、気休めにまず考えたが、なかなかどうして。
しばらくすると今そやつが正面の戸に近《ちかづ》いたなと思ったのが、羊の鳴声になる。
私はその方を枕《まくら》にしていたのじゃから、つまり枕頭《まくらもと》の戸外《おもて》じゃな。しばらくすると、右手《めて》のかの紫陽花が咲いていたその花の下あたりで、鳥の羽ばたきする音。
むささびか知らぬがきッきッといって屋の棟《むね》へ、やがておよそ小山ほどあろうと気取《けど》られるのが胸を圧《お》すほどに近《ちかづ》いて来て、牛が鳴いた、遠くの彼方《かなた》からひたひたと小刻《こきざみ》に駈《か》けて来るのは、二本足に草鞋《わらじ》を穿《は》いた獣と思われた、いやさまざまにむらむらと家《うち》のぐるりを取巻いたようで、二十三十のものの鼻息、羽音、中には囁《ささや》いているのがある。あたかも何よ、それ畜生道《ちくしょうどう》の地獄の絵を、月夜に映したような怪しの姿が板戸一枚、魑魅魍魎《ちみもうりょう》というのであろうか、ざわざわと木の葉が戦《そよ》ぐ気色《けしき》だった。
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