「どうぞその後を、それから。」と聞く身には他事をいううちが牴牾《もどか》しく、膠《にべ》もなく続きを促《うなが》した。
「さて、夜も更《ふ》けました、」といって旅僧《たびそう》はまた語出《かたりだ》した。
「たいてい推量もなさるであろうが、いかに草臥《くたび》れておっても申上げたような深山《みやま》の孤家《ひとつや》で、眠られるものではない、それに少し気になって、はじめの内|私《わし》を寝かさなかった事もあるし、目は冴《さ》えて、まじまじしていたが、さすがに、疲《つかれ》が酷《ひど》いから、心《しん》は少しぼんやりして来た、何しろ夜の白むのが待遠《まちどお》でならぬ。
 そこではじめの内は我ともなく鐘の音の聞えるのを心頼みにして、今鳴るか、もう鳴るか、はて時刻はたっぷり経《た》ったものをと、怪《あや》しんだが、やがて気が付いて、こういう処じゃ山寺どころではないと思うと、にわかに心細くなった。
 その時は早や、夜がものに譬《たと》えると谷の底じゃ、白痴《ばか》がだらしのない寐息《ねいき》も聞えなくなると、たちまち戸の外にものの気勢《けはい》がしてきた。
 獣《けもの》の跫音のようで、さ
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