》どもは納戸《なんど》へ臥《ふ》せりますから、貴僧《あなた》はここへお広くお寛《くつろ》ぎがようござんす、ちょいと待って。)といいかけてつッと立ち、つかつかと足早に土間へ下りた、余り身のこなしが活溌《かっばつ》であったので、その拍子に黒髪が先を巻いたまま項《うなじ》へ崩《くず》れた。
鬢《びん》をおさえて戸につかまって、戸外《おもて》を透《すか》したが、独言《ひとりごと》をした。
(おやおやさっきの騒《さわ》ぎで櫛《くし》を落したそうな。)
いかさま馬の腹を潜《くぐ》った時じゃ。」
二十三
この折から下の廊下《ろうか》に跫音《あしおと》がして、静《しずか》に大跨《おおまた》に歩行《ある》いたのが、寂《せき》としているからよく。
やがて小用《こよう》を達《た》した様子、雨戸をばたりと開けるのが聞えた、手水鉢《ちょうずばち》へ柄杓《ひしゃく》の響《ひびき》。
「おお、積《つも》った、積った。」と呟《つぶや》いたのは、旅籠屋《はたごや》の亭主の声である。
「ほほう、この若狭《わかさ》の商人《あきんど》はどこかへ泊ったと見える、何か愉快《おもしろ》い夢でも見ているかな。」
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