しばらくつきあって、そして諸国を行脚なすった内のおもしろい談《はなし》をといって打解《うちと》けて幼《おさな》らしくねだった。
すると上人は頷いて、私《わし》は中年から仰向けに枕に就かぬのが癖《くせ》で、寝るにもこのままではあるけれども目はまだなかなか冴えている、急に寐就かれないのはお前様とおんなじであろう。出家《しゅっけ》のいうことでも、教《おしえ》だの、戒《いましめ》だの、説法とばかりは限らぬ、若いの、聞かっしゃい、と言って語り出した。後で聞くと宗門名誉《しゅうもんめいよ》の説教師で、六明寺《りくみんじ》の宗朝《しゅうちょう》という大和尚《だいおしょう》であったそうな。
三
「今にもう一人ここへ来て寝るそうじゃが、お前様と同国じゃの、若狭の者で塗物《ぬりもの》の旅商人《たびあきんど》。いやこの男なぞは若いが感心に実体《じってい》な好《よ》い男。
私《わたし》が今話の序開《じょびらき》をしたその飛騨の山越《やまごえ》をやった時の、麓《ふもと》の茶屋で一緒《いっしょ》になった富山《とやま》の売薬という奴《やつ》あ、けたいの悪い、ねじねじした厭《いや》な壮佼《わかいもの
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