、人見知《ひとみしり》をするといった形で首を振った。」
二十二
「左右《とこう》して、婦人《おんな》が、励《はげ》ますように、賺《すか》すようにして勧めると、白痴《ばか》は首を曲げてかの臍《へそ》を弄《もてあそ》びながら唄った。
木曽《きそ》の御嶽山《おんたけさん》は夏でも寒い、
袷遣《あわせや》りたや足袋添《たびそ》えて。
(よく知っておりましょう、)と婦人《おんな》は聞き澄して莞爾《にっこり》する。
不思議や、唄った時の白痴《ばか》の声はこの話をお聞きなさるお前様はもとよりじゃが、私《わし》も推量したとは月鼈雲泥《げっべつうんでい》、天地の相違、節廻《ふしまわ》し、あげさげ、呼吸《いき》の続くところから、第一その清らかな涼しい声という者は、到底《とうてい》この少年の咽喉《のど》から出たものではない。まず前《さき》の世のこの白痴《ばか》の身が、冥土《めいど》から管でそのふくれた腹へ通わして寄越《よこ》すほどに聞えましたよ。
私は畏《かしこま》って聞き果てると、膝に手をついたッきりどうしても顔を上げてそこな男女《ふたり》を見ることが出来ぬ、何か胸がキヤキ
前へ
次へ
全102ページ中75ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング