は一ツも居ませんよ、町方《まちかた》ではね、上《かみ》の洞《ほら》の者は、里へ泊りに来た時|蚊帳《かや》を釣《つ》って寝かそうとすると、どうして入るのか解らないので、梯子《はしご》を貸せいと喚《わめ》いたと申して嬲《なぶ》るのでございます。
 たんと朝寐《あさね》を遊ばしても鐘《かね》は聞えず、鶏《とり》も鳴きません、犬だっておりませんからお心安《こころやす》うござんしょう。
 この人も生れ落ちるとこの山で育ったので、何にも存じません代り、気のいい人でちっともお心置《こころおき》はないのでござんす。
 それでも風俗《ふう》のかわった方がいらっしゃいますと、大事にしてお辞儀《じぎ》をすることだけは知ってでございますが、まだご挨拶《あいさつ》をいたしませんね。この頃《ごろ》は体がだるいと見えてお惰《なま》けさんになんなすったよ。いいえ、まるで愚《おろか》なのではございません、何でもちゃんと心得《こころえ》ております。
 さあ、ご坊様にご挨拶をなすって下さい。まあ、お辞儀をお忘れかい。)と親しげに身を寄せて、顔を差し覗《のぞ》いて、いそいそしていうと、白痴《ばか》はふらふらと両手をついて、ぜ
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