出《むきだ》して、あの宙へ下げている手を風で煽《あお》るように、はらりはらり。
(世話が焼けることねえ、)
婦人《おんな》は投げるようにいって草履《ぞうり》を突《つッ》かけて土間へついと出る。
(嬢様|勘違《かんちが》いさっしゃるな、これはお前様ではないぞ、何でもはじめからそこなお坊様に目をつけたっけよ、畜生|俗縁《ぞくえん》があるだッぺいわさ。)
俗縁は驚《おどろ》いたい。
すると婦人が、
(貴僧《あなた》ここへいらっしゃる路《みち》で誰にかお逢《あ》いなさりはしませんか。)」
十九
「(はい、辻《つじ》の手前で富山の反魂丹売《はんごんたんうり》に逢いましたが、一足先にやっぱりこの路へ入りました。)
(ああ、そう。)と会心の笑《えみ》を洩《もら》して婦人《おんな》は蘆毛《あしげ》の方を見た、およそ耐《たま》らなく可笑《おか》しいといったはしたない風采《とりなり》で。
極めて与《くみ》し易《やす》う見えたので、
(もしや此家《こちら》へ参りませなんだでございましょうか。)
(いいえ、存じません。)という時たちまち犯すべからざる者になったから、私《わし》は口をつぐむ
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