ゃけん》にされては木から落ちた猿同然じゃと、おっかなびっくりで、おずおず控えていたが、いや案ずるより産《うむ》が安い。
(貴僧《あなた》、さぞおかしかったでござんしょうね、)と自分でも思い出したように快く微笑《ほほえ》みながら、
(しようがないのでございますよ。)
以前と変らず心安くなった、帯も早やしめたので、
(それでは家《うち》へ帰りましょう。)と米磨桶《こめとぎおけ》を小腋《こわき》にして、草履《ぞうり》を引《ひっ》かけてつと崖《がけ》へ上《のぼ》った。
(お危《あぶの》うござんすから。)
(いえ、もうだいぶ勝手が分っております。)
ずッと心得《こころえ》た意《つもり》じゃったが、さて上《あが》る時見ると思いの外《ほか》上までは大層高い。
やがてまた例の木の丸太を渡るのじゃが、さっきもいった通り草のなかに横倒れになっている木地がこうちょうど鱗《うろこ》のようで、譬《たとえ》にもよくいうが松の木は蝮《うわばみ》に似ているで。
殊《こと》に崖を、上の方へ、いい塩梅《あんばい》に蜿《うね》った様子が、とんだものに持って来いなり、およそこのくらいな胴中《どうなか》の長虫がと思うと
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