)
不意を打たれたように叫んで身悶《みもだ》えをしたのは婦人《おんな》。
(どうかなさいましたか、)もうちゃんと法衣《ころも》を着たから気丈夫《きじょうぶ》に尋《たず》ねる。
(いいえ、)
といったばかりできまりが悪そうに、くるりと後向《うしろむき》になった。
その時小犬ほどな鼠色《ねずみいろ》の小坊主《こぼうず》が、ちょこちょことやって来て、あなやと思うと、崖《がけ》から横に宙をひょいと、背後《うしろ》から婦人《おんな》の背中へぴったり。
裸体《はだか》の立姿は腰から消えたようになって、抱《だき》ついたものがある。
(畜生《ちくしょう》、お客様が見えないかい。)
と声に怒《いかり》を帯びたが、
(お前達は生意気《なまいき》だよ、)と激しくいいさま、腋の下から覗《のぞ》こうとした件《くだん》の動物の天窓《あたま》を振返《ふりかえ》りさまにくらわしたで。
キッキッというて奇声を放った、件の小坊主はそのまま後飛《うしろと》びにまた宙を飛んで、今まで法衣《ころも》をかけておいた、枝の尖《さき》へ長い手で釣《つる》し下《さが》ったと思うと、くるりと釣瓶覆《つるべがえし》に上へ乗って
前へ
次へ
全102ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング