》していたのじゃ。
何と驚《おどろ》くまいことか。
(こんなに太っておりますから、もうお愧《はずか》しいほど暑いのでございます、今時は毎日二度も三度も来てはこうやって汗を流します、この水がございませんかったらどういたしましょう、貴僧《あなた》、お手拭《てぬぐい》。)といって絞《しぼ》ったのを寄越《よこ》した。
(それでおみ足をお拭《ふ》きなさいまし。)
いつの間にか、体はちゃんと拭いてあった、お話し申すも恐《おそれ》多いが、はははははは。」
十六
「なるほど見たところ、衣服《きもの》を着た時の姿とは違《ちご》うて肉《しし》つきの豊な、ふっくりとした膚《はだえ》。
(さっき小屋へ入って世話をしましたので、ぬらぬらした馬の鼻息が体中にかかって気味が悪うござんす。ちょうどようございますから私も体を拭きましょう。)
と姉弟《きょうだい》が内端話《うちわばなし》をするような調子。手をあげて黒髪をおさえながら腋《わき》の下を手拭でぐいと拭き、あとを両手で絞りながら立った姿、ただこれ雪のようなのをかかる霊水で清めた、こういう女の汗は薄紅《うすくれない》になって流れよう。
ちょい
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