袖を前歯で引上げ、玉のような二の腕をあからさまに背中に乗せたが、じっと見て、
(まあ、)
(どうかいたしておりますか。)
(痣《あざ》のようになって、一面に。)
(ええ、それでございます、酷《ひど》い目に逢《あ》いました。)
思い出してもぞッとするて。」
十五
「婦人《おんな》は驚いた顔をして、
(それでは森の中で、大変でございますこと。旅をする人が、飛騨《ひだ》の山では蛭が降るというのはあすこでござんす。貴僧《あなた》は抜道をご存じないから正面《まとも》に蛭の巣をお通りなさいましたのでございますよ。お生命《いのち》も冥加《みょうが》なくらい、馬でも牛でも吸い殺すのでございますもの。しかし疼《うず》くようにお痒《かゆ》いのでござんしょうね。)
(ただいまではもう痛みますばかりになりました。)
(それではこんなものでこすりましては柔《やわら》かいお肌が擦剥《すりむ》けましょう。)というと手が綿のように障《さわ》った。
それから両方の肩から、背、横腹、臀《いしき》、さらさら水をかけてはさすってくれる。
それがさ、骨に通って冷たいかというとそうではなかった。暑い時分じゃが
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