いると。
(あれ、貴僧《あなた》、そんな行儀《ぎょうぎ》のいいことをしていらしってはお召《めし》が濡《ぬ》れます、気味が悪うございますよ、すっぱり裸体《はだか》になってお洗いなさいまし、私が流して上げましょう。)
(いえ、)
(いえじゃあござんせぬ、それ、それ、お法衣《ころも》の袖《そで》が浸《ひた》るではありませんか、)というと突然背後《いきなりうしろ》から帯に手をかけて、身悶《みもだえ》をして縮むのを、邪慳《じゃけん》らしくすっぱり脱《ぬ》いで取った。
 私《わし》は師匠《ししょう》が厳《きび》しかったし、経を読む身体《からだ》じゃ、肌《はだ》さえ脱いだことはついぞ覚えぬ。しかも婦人《おんな》の前、蝸牛《まいまいつぶろ》が城を明け渡したようで、口を利《き》くさえ、まして手足のあがきも出来ず、背中を円くして、膝《ひざ》を合せて、縮かまると、婦人《おんな》は脱がした法衣《ころも》を傍《かたわ》らの枝へふわりとかけた。
(お召はこうやっておきましょう、さあお背《せな》を、あれさ、じっとして。お嬢様とおっしゃって下さいましたお礼に、叔母さんが世話を焼くのでござんす、お人の悪い。)といって片
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