き》の悪弊《あくへい》で、その日も期したるごとく、汽車を下《おり》ると停車場《ステイション》の出口から町端《まちはな》へかけて招きの提灯《ちょうちん》、印傘《しるしがさ》の堤《つつみ》を築き、潜抜《くぐりぬ》ける隙《すき》もあらなく旅人を取囲んで、手《て》ン手《で》に喧《かまびす》しく己《おの》が家号《やごう》を呼立《よびた》てる、中にも烈《はげ》しいのは、素早《すばや》く手荷物を引手繰《ひったく》って、へい難有《ありがと》う様《さま》で、を喰《くら》わす、頭痛持は血が上るほど耐《こら》え切れないのが、例の下を向いて悠々《ゆうゆう》と小取廻《ことりまわ》しに通抜《とおりぬ》ける旅僧は、誰《たれ》も袖を曳《ひ》かなかったから、幸いその後に跟《つ》いて町へ入って、ほっという息を吐《つ》いた。
雪は小止《おやみ》なく、今は雨も交らず乾いた軽いのがさらさらと面《おもて》を打ち、宵《よい》ながら門《かど》を鎖《とざ》した敦賀の通《とおり》はひっそりして一条二条|縦横《たてよこ》に、辻《つじ》の角は広々と、白く積った中を、道の程《ほど》八町ばかりで、とある軒下《のきした》に辿《たど》り着いたのが
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