の片褄《かたつま》をぐいとあげた。真白なのが暗《やみ》まぎれ、歩行《ある》くと霜《しも》が消えて行くような。
 ずんずんずんずんと道を下りる、傍《かたわ》らの叢《くさむら》から、のさのさと出たのは蟇《ひき》で。
(あれ、気味が悪いよ。)というと婦人《おんな》は背後《うしろ》へ高々と踵《かかと》を上げて向うへ飛んだ。
(お客様がいらっしゃるではないかね、人の足になんか搦《から》まって、贅沢《ぜいたく》じゃあないか、お前達は虫を吸っていればたくさんだよ。
 貴僧《あなた》ずんずんいらっしゃいましな、どうもしはしません。こう云う処ですからあんなものまで人|懐《なつか》しゅうございます、厭《いや》じゃないかね、お前達と友達をみたようで愧《はずか》しい、あれいけませんよ。)
 蟇はのさのさとまた草を分けて入った、婦人《おんな》はむこうへずいと。
(さあこの上へ乗るんです、土が柔かで壊《く》えますから地面は歩行《ある》かれません。)
 いかにも大木の僵《たお》れたのが草がくれにその幹をあらわしている、乗ると足駄穿《あしだばき》で差支《さしつか》えがない、丸木だけれどもおそろしく太いので、もっともこ
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