ぐ、それが代《だい》がわりの世界であろうと、ぼんやり。
なるほどこの森も入口では何の事もなかったのに、中へ来るとこの通り、もっと奥深く進んだら早《は》や残らず立樹《たちき》の根の方から朽《く》ちて山蛭になっていよう、助かるまい、ここで取殺される因縁《いんねん》らしい、取留《とりと》めのない考えが浮んだのも人が知死期《ちしご》に近《ちかづ》いたからだとふと気が付いた。
どの道死ぬるものなら一足でも前へ進んで、世間の者が夢《ゆめ》にも知らぬ血と泥の大沼の片端《かたはし》でも見ておこうと、そう覚悟《かくご》がきまっては気味の悪いも何もあったものじゃない、体中|珠数生《じゅずなり》になったのを手当《てあたり》次第に掻《か》い除《の》け※[#「てへん」に「劣」 117−2]《むし》り棄《す》て、抜き取りなどして、手を挙げ足を踏んで、まるで躍《おど》り狂う形で歩行《ある》き出した。
はじめの中《うち》は一廻《ひとまわり》も太ったように思われて痒《かゆ》さが耐《たま》らなかったが、しまいにはげっそり痩《や》せたと感じられてずきずき痛んでならぬ、その上を容赦《ようしゃ》なく歩行《ある》く内にも入
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