並んだ傍《わき》へまた附着《くッつ》いて爪先《つまさき》も分らなくなった、そうして活《い》きてると思うだけ脈を打って血を吸うような、思いなしか一ツ一ツ伸縮《のびちぢみ》をするようなのを見るから気が遠くなって、その時不思議な考えが起きた。
 この恐しい山蛭《やまびる》は神代《かみよ》の古《いにしえ》からここに屯《たむろ》をしていて、人の来るのを待ちつけて、永い久しい間にどのくらい何斛《なんごく》かの血を吸うと、そこでこの虫の望《のぞみ》が叶《かな》う、その時はありったけの蛭が残らず吸っただけの人間の血を吐出《はきだ》すと、それがために土がとけて山一ツ一面に血と泥《どろ》との大沼にかわるであろう、それと同時にここに日の光を遮《さえぎ》って昼もなお暗い大木が切々《きれぎれ》に一ツ一ツ蛭になってしまうのに相違《そうい》ないと、いや、全くの事で。」

     九

「およそ人間が滅びるのは、地球の薄皮《うすかわ》が破れて空から火が降るのでもなければ、大海が押被《おっかぶ》さるのでもない、飛騨国《ひだのくに》の樹林《きばやし》が蛭になるのが最初で、しまいには皆《みんな》血と泥の中に筋の黒い虫が泳
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