て目の下へ指をつけてじっと見ると、今折曲げた肱《ひじ》の処へつるりと垂懸《たれかか》っているのは同形《おなじかたち》をした、幅が五分、丈《たけ》が三寸ばかりの山海鼠《やまなまこ》。
 呆気《あっけ》に取られて見る見る内に、下の方から縮みながら、ぶくぶくと太って行くのは生血《いきち》をしたたかに吸込むせいで、濁《にご》った黒い滑らかな肌《はだ》に茶褐色《ちゃかっしょく》の縞《しま》をもった、疣胡瓜《いぼきゅうり》のような血を取る動物、こいつは蛭《ひる》じゃよ。
 誰《た》が目にも見違えるわけのものではないが、図抜《ずぬけ》て余り大きいからちょっとは気がつかぬであった、何の畠《はたけ》でも、どんな履歴《りれき》のある沼《ぬま》でも、このくらいな蛭はあろうとは思われぬ。
 肱をばさりと振《ふる》ったけれども、よく喰込《くいこ》んだと見えてなかなか放れそうにしないから不気味《ぶきみ》ながら手で抓《つま》んで引切ると、ぷつりといってようよう取れる、しばらくも耐《たま》ったものではない、突然《いきなり》取って大地へ叩《たた》きつけると、これほどの奴等《やつら》が何万となく巣をくって我《わが》ものに
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