は行過ぎた背後《うしろ》へこぼれるのもある、それ等《ら》は枝から枝に溜《たま》っていて何十年ぶりではじめて地の上まで落ちるのか分らぬ。」
八
「心細さは申すまでもなかったが、卑怯《ひきょう》なようでも修行《しゅぎょう》の積まぬ身には、こういう暗い処の方がかえって観念に便《たより》がよい。何しろ体が凌《しの》ぎよくなったために足の弱《よわり》も忘れたので、道も大きに捗取《はかど》って、まずこれで七分は森の中を越したろうと思う処で五六尺|天窓《あたま》の上らしかった樹の枝から、ぼたりと笠の上へ落ち留まったものがある。
鉛《なまり》の錘《おもり》かとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着《くッつ》いていてそのままには取れないから、何心なく手をやって掴《つか》むと、滑《なめ》らかに冷《ひや》りと来た。
見ると海鼠《なまこ》を裂《さ》いたような目も口もない者じゃが、動物には違いない。不気味で投出そうとするとずるずると辷《すべ》って指の尖《さき》へ吸ついてぶらりと下った、その放れた指の尖から真赤な美しい血が垂々《たらたら》と出たから、吃驚《びっくり》し
前へ
次へ
全102ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング