込んで立直ったはよいが、息も引かぬ内《うち》に情無《なさけな》い長虫が路を切った。
そこでもう所詮叶《しょせんかな》わぬと思ったなり、これはこの山の霊《れい》であろうと考えて、杖を棄《す》てて膝を曲げ、じりじりする地《つち》に両手をついて、
(誠に済みませぬがお通しなすって下さりまし、なるたけお午睡《ひるね》の邪魔《じゃま》になりませぬようにそっと通行いたしまする。
ご覧《らん》の通り杖も棄てました。)と我折《がお》れしみじみと頼んで額を上げるとざっという凄《すさま》じい音で。
心持《こころもち》よほどの大蛇と思った、三尺、四尺、五尺四方、一丈余、だんだんと草の動くのが広がって、傍《かたえ》の渓《たに》へ一文字にさっと靡《なび》いた、果《はて》は峰《みね》も山も一斉に揺《ゆら》いだ、恐毛《おぞげ》を震《ふる》って立竦《たちすく》むと涼しさが身に染みて、気が付くと山颪《やまおろし》よ。
この折から聞えはじめたのはどっという山彦《こだま》に伝わる響《ひびき》、ちょうど山の奥に風が渦巻《うづま》いてそこから吹起《ふきおこ》る穴があいたように感じられる。
何しろ山霊感応あったか、蛇は
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