からがくがくして歩行《ある》くのが少し難渋《なんじゅう》になったけれども、ここで倒《たお》れては温気《うんき》で蒸殺《むしころ》されるばかりじゃと、我身で我身を激《はげ》まして首筋を取って引立てるようにして峠の方へ。
何しろ路傍《みちばた》の草いきれが恐《おそろ》しい、大鳥の卵見たようなものなんぞ足許《あしもと》にごろごろしている茂り塩梅《あんばい》。
また二里ばかり大蛇《おろち》の蜿《うね》るような坂を、山懐《やまぶところ》に突当《つきあた》って岩角を曲って、木の根を繞《めぐ》って参ったがここのことで余りの道じゃったから、参謀《さんぼう》本部の絵図面を開いて見ました。
何やっぱり道はおんなじで聞いたにも見たのにも変《かわり》はない、旧道はこちらに相違はないから心遣《こころや》りにも何にもならず、もとより歴《れっき》とした図面というて、描《か》いてある道はただ栗《くり》の毬《いが》の上へ赤い筋が引張ってあるばかり。
難儀《なんぎ》さも、蛇も、毛虫も、鳥の卵も、草いきれも、記してあるはずはないのじゃから、さっぱりと畳《たた》んで懐《ふところ》に入れて、うむとこの乳の下へ念仏を唱え
前へ
次へ
全102ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング