数《すう》ではないからびくびくしながら路を急ぐとまたしても居たよ。
 しかも今度のは半分に引切《ひっき》ってある胴から尾ばかりの虫じゃ、切口が蒼《あおみ》を帯びてそれでこう黄色な汁《しる》が流れてぴくぴくと動いたわ。
 我を忘れてばらばらとあとへ遁帰《にげかえ》ったが、気が付けば例のがまだ居るであろう、たとい殺されるまでも二度とはあれを跨《また》ぐ気はせぬ。ああさっきのお百姓がものの間違《まちがい》でも故道《ふるみち》には蛇がこうといってくれたら、地獄《じごく》へ落ちても来なかったにと照りつけられて、涙《なみだ》が流れた、南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、今でもぞっとする。」と額に手を。

     七

「果《はてし》が無いから肝《きも》を据《す》えた、もとより引返す分ではない。旧《もと》の処《ところ》にはやっぱり丈足《じょうた》らずの骸《むくろ》がある、遠くへ避《さ》けて草の中へ駈《か》け抜けたが、今にもあとの半分が絡《まと》いつきそうで耐《たま》らぬから気臆《きおくれ》がして足が筋張《すじば》ると石に躓《つまず》いて転んだ、その時|膝節《ひざぶし》を痛めましたものと見える。
 それ
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