悟《かくご》のことで、足は相応に達者、いや屈《くっ》せずに進んだ進んだ。すると、だんだんまた山が両方から逼《せま》って来て、肩に支《つか》えそうな狭いとこになった、すぐに上《のぼり》。
さあ、これからが名代《なだい》の天生《あもう》峠と心得たから、こっちもその気になって、何しろ暑いので、喘《あえ》ぎながらまず草鞋《わらじ》の紐《ひも》を緊直《しめなお》した。
ちょうどこの上口《のぼりぐち》の辺に美濃《みの》の蓮大寺《れんだいじ》の本堂の床下《ゆかした》まで吹抜《ふきぬ》けの風穴《かざあな》があるということを年経《とした》ってから聞きましたが、なかなかそこどころの沙汰《さた》ではない、一生懸命《いっしょうけんめい》、景色《けしき》も奇跡《きせき》もあるものかい、お天気さえ晴れたか曇ったか訳が解らず、目《ま》じろぎもしないですたすたと捏《こ》ねて上《のぼ》る。
とお前様お聞かせ申す話は、これからじゃが、最初に申す通り路がいかにも悪い、まるで人が通いそうでない上に、恐しいのは、蛇《へび》で。両方の叢《くさむら》に尾と頭とを突込んで、のたりと橋を渡しているではあるまいか。
私《わし》は
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