といって茶店の女の背中を叩《たた》いた。
 私《わし》はそうそうに遁出《にげだ》した。
 いや、膝だの、女の背中だのといって、いけ年《とし》を仕《つかまつ》った和尚が業体《ぎょうてい》で恐入《おそれい》るが、話が、話じゃからそこはよろしく。」

     四
 
「私《わし》も腹立紛《はらたちまぎ》れじゃ、無暗《むやみ》と急いで、それからどんどん山の裾《すそ》を田圃道《たんぼみち》へかかる。
 半町ばかり行くと、路《みち》がこう急に高くなって、上《のぼ》りが一カ処、横からよく見えた、弓形《ゆみなり》でまるで土で勅使橋《ちょくしばし》がかかってるような。上を見ながら、これへ足を踏懸《ふみか》けた時、以前の薬売《くすりうり》がすたすたやって来て追着《おいつ》いたが。
 別に言葉も交《かわ》さず、またものをいったからというて、返事をする気はこっちにもない。どこまでも人を凌《しの》いだ仕打《しうち》な薬売は流眄《しりめ》にかけて故《わざ》とらしゅう私《わし》を通越《とおりこ》して、すたすた前へ出て、ぬっと小山のような路の突先《とっさき》へ蝙蝠傘を差して立ったが、そのまま向うへ下りて見えなくなる
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