(山したの方には大分|流行病《はやりやまい》がございますが、この水は何《なに》から、辻の方から流れて来るのではありませんか。)
(そうでねえ。)と女は何気《なにげ》なく答えた、まず嬉《うれ》しやと思うと、お聞きなさいよ。
 ここに居て、さっきから休んでござったのが、右の売薬じゃ。このまた万金丹《まんきんたん》の下廻《したまわり》と来た日には、ご存じの通り、千筋《せんすじ》の単衣《ひとえ》に小倉《こくら》の帯、当節は時計を挟《はさ》んでいます、脚絆《きゃはん》、股引《ももひき》、これはもちろん、草鞋《わらじ》がけ、千草木綿《ちぐさもめん》の風呂敷包《ふろしきづつみ》の角《かど》ばったのを首に結《ゆわ》えて、桐油合羽《とうゆがっぱ》を小さく畳《たた》んでこいつを真田紐《さなだひも》で右の包につけるか、小弁慶《こべんけい》の木綿の蝙蝠傘《こうもりがさ》を一本、おきまりだね。ちょいと見ると、いやどれもこれも克明《こくめい》で分別のありそうな顔をして。
 これが泊《とまり》に着くと、大形の浴衣《ゆかた》に変って、帯広解《おびひろげ》で焼酎《しょうちゅう》をちびりちびり遣《や》りながら、旅籠屋《は
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