乗せ得そうにもない奴《やつ》じゃが、そこはおらが口じゃ、うまく仲人《なこうど》して、二月《ふたつき》や三月《みつき》はお嬢様《じょうさま》がご不自由のねえように、翌日《あす》はものにしてうんとここへ担《かつ》ぎ込みます。)
(お頼み申しますよ。)
(承知、承知、おお、嬢様どこさ行かっしゃる。)
(崖の水までちょいと。)
(若い坊様連れて川へ落っこちさっしゃるな、おらここに眼張《がんば》って待っとるに、)と横様《よこざま》に縁にのさり。
(貴僧《あなた》、あんなことを申しますよ。)と顔を見て微笑《ほほえ》んだ。
(一人で参りましょう、)と傍《わき》へ退《の》くと、親仁《おやじ》はくっくっと笑って、
(はははは、さあ、早くいってござらっせえ。)
(おじ様、今日はお前、珍《めずら》しいお客がお二方ござんした、こういう時はあとからまた見えようも知れません、次郎さんばかりでは来た者が弱んなさろう、私《わたし》が帰るまでそこに休んでいておくれでないか。)
(いいともの。)といいかけて、親仁《おやじ》は少年の傍《そば》へにじり寄って、鉄挺《かなてこ》を見たような拳《こぶし》で、背中をどんとくらわした、白痴《ばか》の腹はだぶりとして、べそをかくような口つきで、にやりと笑う。
私《わし》はぞっとして面《おもて》を背けたが、婦人《おんな》は何気《なにげ》ない体《てい》であった。
親仁《おやじ》は大口を開いて、
(留守におらがこの亭主を盗むぞよ。)
(はい、ならば手柄《てがら》でござんす、さあ、貴僧《あなた》参りましょうか。)
背後《うしろ》から親仁が見るように思ったが、導かるるままに壁《かべ》について、かの紫陽花のある方ではない。
やがて背戸と思う処で左に馬小屋を見た、ことことという音は羽目《はめ》を蹴《け》るのであろう、もうその辺から薄暗くなって来る。
(貴僧《あなた》、ここから下りるのでございます、辷《すべ》りはいたしませぬが、道が酷《ひど》うございますからお静《しずか》に、)という。」
十三
「そこから下りるのだと思われる、松の木の細くッて度外れに背の高い、ひょろひょろしたおよそ五六間上までは小枝一ツもないのがある。その中を潜《くぐ》ったが、仰《あお》ぐと梢《こずえ》に出て白い、月の形はここでも別にかわりは無かった、浮世《うきよ》はどこにあるか十三夜で。
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