先へ立った婦人《おんな》の姿が目さきを放れたから、松の幹《みき》に掴《つか》まって覗《のぞ》くと、つい下に居た。
仰向《あおむ》いて、
(急に低くなりますから気をつけて。こりゃ貴僧《あなた》には足駄《あしだ》では無理でございましたかしら、宜《よろ》しくば草履《ぞうり》とお取交《とりか》え申しましょう。)
立後《たちおく》れたのを歩行悩《あるきなや》んだと察した様子、何がさて転げ落ちても早く行って蛭《ひる》の垢《あか》を落したさ。
(何、いけませんければ跣足《はだし》になります分のこと、どうぞお構いなく、嬢様にご心配をかけては済みません。)
(あれ、嬢様ですって、)とやや調子を高めて、艶麗《あでやか》に笑った。
(はい、ただいまあの爺様《じいさん》が、さよう申しましたように存じますが、夫人《おくさま》でございますか。)
(何にしても貴僧《あなた》には叔母《おば》さんくらいな年紀《とし》ですよ。まあ、お早くいらっしゃい、草履もようござんすけれど、刺《とげ》がささりますといけません、それにじくじく湿《ぬ》れていてお気味が悪うございましょうから。)と向う向《むき》でいいながら衣服《きもの》の片褄《かたつま》をぐいとあげた。真白なのが暗《やみ》まぎれ、歩行《ある》くと霜《しも》が消えて行くような。
ずんずんずんずんと道を下りる、傍《かたわ》らの叢《くさむら》から、のさのさと出たのは蟇《ひき》で。
(あれ、気味が悪いよ。)というと婦人《おんな》は背後《うしろ》へ高々と踵《かかと》を上げて向うへ飛んだ。
(お客様がいらっしゃるではないかね、人の足になんか搦《から》まって、贅沢《ぜいたく》じゃあないか、お前達は虫を吸っていればたくさんだよ。
貴僧《あなた》ずんずんいらっしゃいましな、どうもしはしません。こう云う処ですからあんなものまで人|懐《なつか》しゅうございます、厭《いや》じゃないかね、お前達と友達をみたようで愧《はずか》しい、あれいけませんよ。)
蟇はのさのさとまた草を分けて入った、婦人《おんな》はむこうへずいと。
(さあこの上へ乗るんです、土が柔かで壊《く》えますから地面は歩行《ある》かれません。)
いかにも大木の僵《たお》れたのが草がくれにその幹をあらわしている、乗ると足駄穿《あしだばき》で差支《さしつか》えがない、丸木だけれどもおそろしく太いので、もっともこ
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