いて出たが、屈《かが》んで板縁《いたえん》の下を覗《のぞ》いて、引出したのは一足の古|下駄《げた》で、かちりと合《あわ》して埃《ほこり》を払《はた》いて揃《そろ》えてくれた。
(お穿《は》きなさいまし、草鞋《わらじ》はここにお置きなすって、)
私《わし》は手をあげて、一礼して、
(恐入ります、これはどうも、)
(お泊め申すとなりましたら、あの、他生《たしょう》の縁《えん》とやらでござんす、あなたご遠慮を遊ばしますなよ。)まず恐しく調子がいいじゃて。」
十二
「(さあ、私に跟《つ》いてこちらへ、)と件の米磨桶《こめとぎおけ》を引抱《ひっかか》えて手拭《てぬぐい》を細い帯に挟《はさ》んで立った。
髪は房《ふっさ》りとするのを束《たば》ねてな、櫛《くし》をはさんで簪《かんざし》で留《と》めている、その姿の佳《よ》さというてはなかった。
私《わし》も手早く草鞋を解《と》いたから、早速古下駄を頂戴《ちょうだい》して、縁から立つ時ちょいと見ると、それ例の白痴殿《ばかどの》じゃ。
同じく私《わし》が方《かた》をじろりと見たっけよ、舌不足《したたらず》が饒舌《しゃべ》るような、愚《ぐ》にもつかぬ声を出して、
(姉《ねえ》や、こえ、こえ。)といいながら気《け》だるそうに手を持上げてその蓬々《ぼうぼう》と生えた天窓《あたま》を撫《な》でた。
(坊さま、坊さま?)
すると婦人《おんな》が、下《しも》ぶくれな顔にえくぼを刻んで、三ツばかりはきはきと続けて頷いた。
少年はうむといったが、ぐたりとしてまた臍《へそ》をくりくりくり。
私《わし》は余り気の毒さに顔も上げられないでそっと盗むようにして見ると、婦人《おんな》は何事も別に気に懸《か》けてはおらぬ様子、そのまま後へ跟《つ》いて出ようとする時、紫陽花《あじさい》の花の蔭《かげ》からぬいと出た一名の親仁《おやじ》がある。
背戸《せど》から廻って来たらしい、草鞋を穿《は》いたなりで、胴乱《どうらん》の根付《ねつけ》を紐長《ひもなが》にぶらりと提《さ》げ、銜煙管《くわえぎせる》をしながら並んで立停《たちどま》った。
(和尚《おしょう》様おいでなさい。)
婦人《おんな》はそなたを振向いて、
(おじ様どうでござんした。)
(さればさの、頓馬《とんま》で間の抜けたというのはあのことかい。根ッから早や狐《きつね》でなければ
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