お》くものだといつた、年配《ねんぱい》四十五六《しじふごろく》、柔和《にうわ》な、何等《なんら》の奇《き》も見《み》えぬ、可懐《なつかし》い、おとなしやかな風采《とりなり》で、羅紗《らしや》の角袖《かくそで》の外套《ぐわいたう》を着《き》て、白《しろ》のふらんねるの襟巻《えりまき》を占《し》め、土耳古形《とるこがた》の帽《ばう》を冠《かむ》り、毛糸《けいと》の手袋《てぶくろ》を箝《は》め、白足袋《しろたび》に、日和下駄《ひよりげた》で、一見《いつけん》、僧侶《そうりよ》よりは世《よ》の中《なか》の宗匠《そうしやう》といふものに、其《それ》よりも寧《むし》ろ俗《ぞく》歟《か》。
(お泊《とま》りは何方《どちら》ぢやな、)といつて聞《き》かれたから、私《わたし》は一人旅《ひとりたび》の旅宿《りよしゆく》の詰《つま》らなさを、染々《しみ/″\》歎息《たんそく》した、第一《だいいち》盆《ぼん》を持《も》つて女中《ぢよちう》が坐睡《ゐねむり》をする、番頭《ばんとう》が空世辞《そらせじ》をいふ、廊下《らうか》を歩行《ある》くとじろ/\目《め》をつける、何《なに》より最《もつと》も耐《た》へ難《がた
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