》いのは晩飯《ばんめし》の支度《したく》が済《す》むと、忽《たちま》ち灯《あかり》を行燈《あんどう》に換《か》へて、薄暗《うすぐら》い処《ところ》でお休《やす》みなさいと命令《めいれい》されるが、私《わたし》は夜《よ》が更《ふ》けるまで寝《ね》ることが出来《でき》ないから、其間《そのあひだ》の心持《こゝろもち》といつたらない、殊《こと》に此頃《このごろ》の夜《よ》は長《なが》し、東京《とうきやう》を出《で》る時《とき》から一晩《ひとばん》の泊《とまり》が気《き》になつてならない位《くらゐ》、差支《さしつか》へがなくば御僧《おんそう》と御一所《ごいつしよ》に。
 快《こゝろよ》く頷《うなづ》いて、北陸地方《ほくりくちはう》を行脚《あんぎや》の節《せつ》はいつでも杖《つゑ》を休《やす》める香取屋《かとりや》といふのがある、旧《もと》は一軒《いつけん》の旅店《りよてん》であつたが、一人女《ひとりむすめ》の評判《ひやうばん》なのがなくなつてからは看板《かんばん》を外《はづ》した、けれども昔《むかし》から懇意《こんい》な者《もの》は断《ことは》らず留《とめ》て、老人夫婦《としよりふうふ》が内端《
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