つた山《やま》は過《す》ぎて又《また》一ツ山《やま》が近《ちか》づいて来《き》た、此辺《このあたり》暫《しばら》くの間《あひだ》は野《の》が広々《ひろ/″\》として、前刻《さツき》通《とほ》つた本街道《ほんかいだう》より最《も》つと巾《はゞ》の広《ひろ》い、なだらかな一|筋道《すぢみち》。
 心持《こゝろもち》西《にし》と、東《ひがし》と、真中《まんなか》に山《やま》を一ツ置《お》いて二|条《すぢ》並《なら》んだ路《みち》のやうな、いかさまこれならば鎗《やり》を立《た》てゝも行列《ぎやうれつ》が通《とほ》つたであらう。
 此《こ》の広《ひろ》ツ場《ぱ》でも目《め》の及《およ》ぶ限《かぎり》芥子粒《けしつぶ》ほどの大《おほき》さの売薬《ばいやく》の姿《すがた》も見《み》ないで、時々《とき/″\》焼《や》けるやうな空《そら》を小《ちひ》さな虫《むし》が飛歩行《とびある》いた。
 歩行《ある》くには此《こ》の方《はう》が心細《こゝろぼそ》い、あたりがばツとして居《ゐ》ると便《たより》がないよ。勿論《もちろん》飛騨越《ひだごゑ》と銘《めい》を打《う》つた日《ひ》には、七|里《り》に一|軒《けん
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