》十|里《り》に五|軒《けん》といふ相場《さうば》、其処《そこ》で粟《あは》の飯《めし》にありつけば都合《つがふ》も上《じやう》の方《はう》といふことになつて居《を》ります。其《そ》の覚悟《かくご》のことで、足《あし》は相応《さうおう》に達者《たツしや》、いや屈《くつ》せずに進《すゝ》んだ進《すゝ》んだ。すると、段々《だん/″\》又《また》山《やま》が両方《りやうはう》から逼《せま》つて来《き》て、肩《かた》に支《つか》へさうな狭《せま》いことになつた、直《す》ぐに上《のぼり》。
さあ、之《これ》からが名代《なだい》の天生峠《あまふたうげ》と心得《こゝろえ》たから、此方《こツち》も其気《そのき》になつて、何《なに》しろ暑《あつ》いので、喘《あへ》ぎながら、先《ま》づ草鞋《わらぢ》の紐《ひも》を締直《しめなほ》した。
丁度《ちやうど》此《こ》の上口《のぼりくち》の辺《あたり》に美濃《みの》の蓮大寺《れんたいじ》の本堂《ほんだう》の床下《ゆかした》まで吹抜《ふきぬ》けの風穴《かざあな》があるといふことを年経《とした》つてから聞《き》きましたが、なか/\其処《そこ》どころの沙汰《さた》で
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